キリスト昇架 ルーベンス

ゴルゴタの丘で十字架にかけられるイエス 肉体美と対角線構図

重い十字架を背負い、処刑場であるゴルゴタの丘(ゴルゴダの丘)へ向かって悲しみの道(ヴィア・ドロローサ)を進んだイエス。午前9時にゴルゴタの丘にたどり着いたイエスは、赤い外套をはぎ取られて裸にされ、手足に杭を打ち込まれて十字架にかけられた。

ルーベンスの大作「キリスト昇架」では、このキリスト磔刑において、数人の屈強な男たちがまさにイエスを十字架にかけようとする最中の様子が描写されている。シント・ヴァルブルヒス区教会の主祭壇画として描かれ、「フランダースの犬」で有名な「キリスト降架」と内容的に対を為す。現在は両作品ともアントワープ大聖堂に所蔵されている。

十字架は右下から左上に伸びる対角線上に配置されており、ちょうどルーベンス「キリスト降架」と線対称の対角線構図で描かれている。両作品の対角線を重ねて交差させると、まるで十字架のような図形となるのが大変興味深い。

頭上には罪状の紙

ルーベンス「キリスト昇架」に描かれた十字架の一番上の部分には、何やら細かい文字がびっしりと書き込まれた紙のようなものが貼り付けられている。作品によっては板の上に書きこまれている場合も多い。

これは、ヘブライ語、ラテン語、ギリシア語で「ユダヤの王、ナザレのイエス」と書かれた罪状で、ラテン語では「IESUS NAZARENUS REX IUDAEORUM」とつづられる。

なお、キリスト磔刑を主題とするルネサンス絵画では、この部分の長い記述を省略して、ラテン語のスペルの頭文字・イニシャル「INRI」のみが銘板に書きこまれた形で描写されることが多い。

肉体表現はラオコーン像が影響?

磔にされているイエスを含め、登場人物はみな体格のいい屈強な男達で、これらの肉体美は古代彫刻やミケランジェロの作品を彷彿とさせる。

特にルーベンス「キリスト昇架」との関係性が指摘される彫刻作品としては、バチカン美術館のピオ・クレメンティーノ美術館に所蔵されている大理石製の古代ギリシア彫像「ラオコーン像」が有名。

「ラオコーン像」は、ギリシア神話におけるトロイアの神官ラオコーン(ラオコオン)とその2人の息子を題材とした彫刻作品。いつ制作されたのかについては諸説あり、紀元前160年とも紀元前20年とも言われているが、いずれにしても数千年前の作品であることは間違いない。

トロイア戦争の際、「トロイの木馬」作戦に反対したラオコーンは、ギリシア神話の女神アテナ(アテーナー)の怒りを買い、両目を潰された上に、海に潜む2頭の蛇の怪物に襲われた。

そしてルーベンス「キリストの磔刑」へ

主題の時間的な流れから考えてルーベンス「キリスト昇架」に内容的に連続するルーベンスの絵画としては、有名な「ロンギヌスの槍」が描かれた「キリストの磔刑(槍突き)」という作品が存在する。

「キリスト昇架」、「キリスト降架」と合わせて「ルーベンス十字架三部作」的に連続して鑑賞すると、個別に見たときとはまた違った発見が得られるかもしれない。是非合わせて参照されたい。

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