悔悛するマグダラのマリア エル・グレコ

エル・グレコも多数作品を残した図像 聖人マグダラのマリア

イエスに従い、ゴルゴタの丘(ゴルゴダの丘)でイエスの死を見届け、復活したイエスに最初に立ち会った聖女マグダラのマリア(マリヤ・マグダレナ)。

カトリック教会を中心とする西方教会を中心として、かつてマグダラのマリアはベタニアのマリアやエジプトのマリアと同一視され、元娼婦の罪深い女としてのイメージが強く定着していた。

マグダラのマリアをモチーフとした西洋絵画の美術家たちも、エル・グレコに限らず、「悔悛するマグダラのマリア」、「悔恨のマグダラのマリア」などのタイトルで、同様のイメージに基づいた作品を数多く残している。

エル・グレコは、スペイン到着直後から死の直前まで、マグダラのマリアを主題とした絵画作品を複数残している。このページでは、解説書などでも目にする機会が比較的多いエル・グレコの「マグダラのマリア」3作品について、参考画像とともに簡単に紹介していくこととしたい。

ウースター美術館蔵 悔悛するマグダラのマリア

アメリカ・マサチューセッツ州のウースター美術館が所蔵するエル・グレコ「悔悛するマグダラのマリア」。スペインのトレドに移り住んで数年後の1580年頃に完成された。

マグダラのマリアがイエスの死を見届けたゴルゴタの丘(ゴルゴダの丘)の「ゴルゴタ」とは「頭蓋骨・どくろ」を意味する。エル・グレコの作品に限らず、マグダラのマリアを主題とした宗教画ではアトリビュートとして頭蓋骨・どくろが描かれる。

中央公論社「カンヴァス世界の大画家12 エル・グレコ」の作品解説によれば、この頭蓋骨・どくろについて次のように解釈できるという。

「頭蓋骨の存在はこの場合、聖女(マグダラのマリア)が死を瞑想していることを示している。死を思い天上を渇仰する聖女の表情に、自分の罪を悔悟し、神への愛に生きようとする決心が読み取れる。」

ブダペスト国立絵画館蔵 悔悛するマグダラのマリア

ハンガリーの首都ブダペスト国立絵画館に所蔵されるエル・グレコ「悔悛するマグダラのマリア」は、ウースター美術館蔵の作品とほぼ同時期の1580年頃に製作された。

アトリビュートの頭蓋骨・どくろ、結わずに長くのばされた髪、若干露出が高めの肌の描写。元娼婦という伝説上の固定観念が若干色濃く反映されているようにも見える。

上述の参考書籍「カンヴァス世界の大画家12 エル・グレコ」の作品解説では、次のように説明されている。

「こちらの聖女像の方が可能性が強いようにも思えるが、縦長の画面に体四分の三を描きこみ、空をより恣意的に扱い、手に多くを語らせるなどエル・グレコ絵画の特性が強く表れている。」

なお、マグダラのマリアの長い髪については、フランスの洞窟で隠者として苦行をしていた頃に、服をまとわず髪を伸ばして毛皮のように体をおおっていたという伝説が元となっている。

カウ・フェラット美術館蔵 悔悛するマグダラのマリア

1585年から90年頃にかけて製作されたエル・グレコ「悔悛するマグダラのマリア」。スペイン、カタルーニャの街シッチェスにあるカウ・フェラット美術館(カウ フェラート美術館)蔵。

ゴルゴタの丘でイエスの死を見届けたマグダラのマリアを題材とする作品ということで、後景には十字架にはりつけとなったイエスの像が岩に立てかけられている。

左手は頭蓋骨・どくろに軽く差し向けられ、視線はうつむき加減。右手は胸に添えられ、自らの過去の過ちを悔悛するマグダラのマリアの内省的な心境が見て取れる。

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エル・グレコ
ギリシャからスペインのトレドに移住した異邦人画家。ルネサンス後期マニエリスム。
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