聖母被昇天 ルーベンス

天使たちの導きにより天へ上げられる聖母マリアの霊魂と肉体

ルーベンスの絵画「聖母被昇天(せいぼひしょうてん)」は、聖母マリアの霊魂がその肉体と共に天に上げられる様子を描いた宗教画。1626年頃に制作され、高さ490cm、幅は325cm。アントワープ大聖堂所蔵。アニメ「フランダースの犬」最終回で、「キリスト降架」とともにネロとパトラッシュが天に召されるシーンで取り上げられたことでも有名。

聖母の被昇天(せいぼのひしょうてん)については聖書に記述はないのだが、外典や「黄金伝説」上には聖母マリアの生涯に関する伝承が残されていた。1950年11月1日、第260代ローマ教皇ピオ12世(Papa Pius II/1876-1958)は次のように宣言し、「聖母の被昇天」を教義として公に宣言した。

「われわれの主イエズス・キリストの権威と、使徒聖ペトロと聖パウロの権威、および私の権威により、無原罪の神の母、終生処女であるマリアがその地上の生活を終わった後、肉身と霊魂とともに天の栄光にあげられたことは、神によって啓示された真理であると宣言し、布告し、定義する」

なぜ聖母「被」昇天?

聖母マリアもイエス・キリストもそれぞれ昇天の時を迎えるが、イエスの場合は単に「昇天」とされ、聖母マリアの場合は「被昇天」とされる。これは、神やイエスの導きにより天使たちの力で聖母マリアの霊魂と肉体が天に上げられたことによるもの。

ルーベンス「聖母被昇天」に描かれた聖母マリアの足元を見ると、大勢の天使たちが下から聖母マリアの腰を支えて上へ上へと押し上げている様子がよく分かる。

冠を授かる聖母マリア -聖母戴冠-

ルーベンス「聖母被昇天」の上部、聖母マリアの隣にいる天使たちの手元をよく見ると、花で形作られた冠のようなものを聖母マリアの頭へ運ぼうとしているのが分かる。(花は白と赤のバラ?)

これはいわゆる「聖母戴冠」と呼ばれる宗教画の主題の一つで、独立した絵画作品として取り上げられる場合は、キリストまたは父なる神から、または聖霊を加えた三位一体の戴冠図として描かれることが多い。

空になった墓に驚く人々 亡くなった妻の顔も?

霊魂のみならず肉体もまた天に上げられた聖母マリア。ルーベンスの絵画「聖母被昇天」に限らず、カトリックの教義の一つ「聖母の被昇天」を主題とする宗教画では、空になった墓を見て驚く人々の様子が描写されることがある。

さて、空になった墓の前には、赤い衣服を着て下の方向を見つめる女性が描かれているが、なんとこの女性は、本作品の完成後間もなく亡くなったルーベンスの最初の妻、イザベラ・ブラント(Isabella Brant/1591–1626)。妻の急死を受けて、完成後に上書きの形で書き加えられたという。

ルーベンス「イザベラ・ブラントの肖像画」 1620-1625 クリーブランド美術館(オハイオ州)

イザベラ・ブラントはアントワープ(アントウェルペン)の有力者ヤン・ブラントの娘。ルーベンスとイザベラは、1609年10月3日、聖ミカエル修道院で結婚式を挙げた。

二人の間には、クララ、ニコラス、アルバート(Clara, Nikolaas and Albert)の3人の子供が生まれた。イザベラ・ブラントは34歳の若さで、当時流行していたペストで急死してしまった。ルーベンスは、他にもイザベラの肖像画を何点か残している。

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